INTERVIEW
家との出会いから移住へ、すべてのバランスが良い竹田。
「自然が豊かな場所に住んでみたい」、その理想に叶う場所を探している方も多いのではないでしょうか。移住先を決めるきっかけは、人との繋がりや仕事等さまざまですが、今回は”家”との出会いがきっかけで、竹田に移住した夫妻をご紹介します。
竹田市荻町。祖母山の絶景が目の前に拡がる、森に囲まれた一軒家に暮らしている、レオさん夫妻。台湾で出会った二人は、奥様の故郷・日本への移住を機に、全国の空き家バンクで家を探し、理想の家に巡り合いました。竹田への移住までの経緯や現在の暮らしについて伺いました。
レオ・ペトラスさん、季久さん、ももちゃん、タロウくん(猫)
- プロフィール
レオ・季久
愛知県名古屋市出身。20歳で上京。スタイリストアシスタントや衣料商品管理等の仕事を経験し、雑誌「暮らしの手帖」で惠中布衣文創工作室(日本ブランド名:ヂェン先生の日常着)の紹介記事を見てワーキングホリデービザ取得後、渡台。台湾の現地工房で働く。現在はヂェン先生の日常着を紹介する為、日本国内で展示販売会などを企画。ヨーロッパでも販売する機会を計画中。
ヂェン先生の日常着 TAIWAN HUICHUNG CLOTHESレオ・ペトラス
スウェーデン中部にある、竹田市の人口の半分の人たちが暮らす小さな町、モーラ出身。 国際関係と哲学を学び、12 歳から独学で電子音楽を作り始める。2012 年台湾旅行を機に、台湾文化(気功や瞑想、菜食料理など)に親しみ、滞在を決心。中国語の勉強を始める。その後、専門学校で音楽制作の教師として働き、台湾の若者たちとその魅力を共有する。今後も日本での音楽活動を発展させながら、 同時に野菜や果物の栽培について学んでいる。
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移住するまでの経緯を教えてください。
季久さん:洋服がすごく好きで、アパレル関係のさまざまな仕事をしていました。お金が貯まると、ニューヨークへ行ったり、語学学校に通ったり、海外のいろんな場所に行くことが好きでした。
そんななか、地元名古屋で働いていた時に、台湾のブランド(ヂェン先生の日常着)の雑誌の記事に惹かれて、仕事を辞めて現地の工房まで遊びに行ったんです。すごく良くて、「ここで働きたい」と思いました。
ワーキングホリデービザを取得して、工房の門を叩く訳ですが、言葉が喋れない。向こうも困っていて。それでも2週間粘って通ったことにより働けることになりました。
昼間は工房で働き、夕方から語学学校に通って、そこでペトラスと出会いました。
(写真:ヂェン先生の工房で働く、当時の季久さん) -
ペトラスさん:私と季久は、お互い中国語を学んでいました。私は台湾で電子音楽と英語を教える教師をしていました。
スウェーデンはとても寒いのですが、台湾は暖かいし、食もいいし、人もいい。文化も面白く、気功を勉強したり、5年間滞在しました。
私は幼い頃から、日本食に親しみ育ちました。母親は35年前から独学でアジアの食文化やマクロビオテックフードを学び、有機味噌を取り寄せ、私は子どもの頃から梅干しや海苔を食べていたんです。当初はスウェーデンに帰る計画をしていましたが、季久と出会い、2018年に結婚するタイミングで日本に住むことを決めました。
(写真:ペトラスさんに電子音楽制作を学ぶ、台湾の若者たち) -
季久さん:帰国して、最初は熊本に移住しました。九州は仕事で何回も来ていて、本州の人からすると、九州の土地って魅力的なんですね。熊本は自然が近いし、人も優しいし、おしゃれでセンスの目も長けていて工芸品もある。友人も居て、よく会いに行っていたので、いい町だなと、手っ取り早く熊本市内にマンションを見つけて暮らしていました。私は気に入っていたのですけど、ペトラスはもっと自然の中に住みたいって。
ペトラスさん:街の真ん中で、とても騒々しく、緑の環境が無かった。自然が恋しく、それで田舎に引っ越したいと思い始めました。そこから、1年半かけて家を探しました。
季久さん:家ありきで、住める状態の物件を北海道から喜界島まで、全国の空き家バンクで探しました。現地にも見に行って、家の雰囲気はいいんだけど、住むにはピンと来なくって…。あれ?って(笑)。場所が重要ってことに1年くらい経ってからようやく気づいて。
やっぱり私は九州が好きだし、もう一度九州に絞って探し始めたんです。 -
移住先に竹田を選んだ決め手は何でしたか?
季久さん:そんな時に福岡の友人から、「めちゃくちゃ雰囲気が良かったから、竹田に行ってみたら?」と連絡を貰って、すぐに竹田に来てみたんです。
手つかずの雄大な自然、山と谷の面白い地形とか、他の場所にはない感じで。
水も綺麗だし、温泉もあるし、岡藩の歴史や文化、芸術もある。スーパーや施設も揃ってるし。竹田には、”全部がある”と思ったんです。すごく惹かれて、好きな町だなぁと。ペトラスさんが撮影した家の窓からの風景
季久さん:この家は、竹田市の空き家バンクで見ていたんですけど、写真ではピンと来なくてスキップしてたんです。それでもなかなか物件が見つからなくて、実際に現地に行ってみようってなって、この家を見に来た時に、「もう、ここしかない!」と。その場で購入を決めました。当時は人も住んでいて室内の細部もちゃんと見てないのに、「買う」って言っている自分は大丈夫かな?と思いつつ、ピンと来たのが大きかった。
決め手は、このロケーションです。杉林に囲まれた家はよくあるけれど、ここにはいろんな種類の木や植物があって、バランスよく調和がとれていて。景色は作れないじゃないですか、家は作れるけど。ペトラスさん:ここの自然は、信じられないほど美しいです。晴れた日は、まるでおとぎ話
の風景のよう。長い間、私たちは家を探したけど、ここに来た時に”正解”だと思いました。家のコンディションも良くてラッキーでした。そこから入居中の方の賃貸契約期間が終わるまで、半年間待ちました。この家にたどり着くまで2年かかり、2021年に竹田へ引っ越してきました。 -
生活を始める準備はどんなことをしましたか?
季久さん:家の屋根の一部に雨漏りが見つかったんです。商品のお洋服を取り扱うので、屋根の修繕に竹田市の空き家改修事業補助金を活用させてもらいました。知り合いもいなくて、修理業者を探すのも大変でしたが、家を紹介してくれた市役所の担当の方も一緒に探してくれたり、親身になって対応してくれました。キッチンも排水の状態が良くなく工事をしたり、今もペトラスが各場所をリノベーション中です。
ペトラスさん:大変だったのは、歴代の方々が住んで、置いていかれたゴミを処理することでした。教科書や服、梅や味噌まで屋根裏や、外の物置きにぎっしりで、処分するのに2年かかりました。ですが、それだけ人が住んでいたということは、他の誰かがもっと早くこの家を購入していたのかもしれないと思うと、ゴミがあったこともラッキーだったと考えています。
市の補助金は、屋根の修繕費以外にも、畑の獣害除けの電気柵やフェンスの設置、果物を育てる果樹振興支援など、さまざまな補助金を活用させてもらっています。季久さん:この家が賃貸で出ていたら、賃貸にしていたかもしれないけれど。室内に薪ストーブを置いたり、自分たちで自由にリノベーションができるので、購入する方がすっきりしました。ここに根を張りたかった、っていうのもあります。竹田に住んだことはなかったけれど、近隣の家とも距離があるし、「ここなら大丈夫」という、不思議と不安はなかったです。
こんな環境なのに、インターネットの速度もさくさくで。とても快適で仕事もしやすいです。 -
都市部から移住して、苦労や不便だと感じた点はありますか?
季久さん:唯一、交通ですね。車を運転しているから正直ストレスは無いけれど、東京には頻繁に行けない。今は子どももいるし、県外へ出ていくのは大変ですね。
ペトラスさん:地域との付き合いで、会ったことのない方のお葬式の受付などをしなきゃいけないのは、ちょっとネガティブポイントかもしれない。でも、郷にいれば郷に従えで、特にクエスチョンマークはないです。私たちはここに住んでから幸せな日々を過ごしています。
季久さん:竹田の人は、田舎の人とはちょっと違う。程よい距離感がいい。
” Not to close. Good distance.” 1ヶ月に2回くらい、近所の方が野菜を持ってきてくれたりして、距離感が心地いいです。 -
竹田で子育てをする環境はどうですか?
季久さん:1年前に娘(ももちゃん)を出産しました。困ったことは、市内や近隣市に産婦人科が無かった。大分市の助産院まで定期的に通いました。出産の時は緊急を要する状況で救急車を呼んで、大分市の病院まで搬送されたんですけど、移動の1時間10分は、気が気じゃなかった。無事に産まれてきてくれて良かったです。
大きくなってくると友達と遊びたくても家が遠いなど、悩みも出てくると思いますが、今は問題なく、この環境で伸び伸び育ってほしい。夫婦共に仕事をしている日は、保育園に預けることもあります。この環境で、車で10分の距離に保育園がある。これもいいですよね、竹田って。ペトラスさん:子どもの保育料や医療費が無料なので、竹田市にはとても感謝をしています。
娘も保育園を気に入っていて、人見知りもせず、他の子どもたちのことも大好きで、とても幸せそうです。 -
2年住んでみて感じた、竹田の魅力を教えてください。
季久さん:自分たちで野菜を育て、食べるという自給自足に近い暮らしを求めていたので、今は理想の生活ができていますね。それと、2年間マスクをしなくていい暮らしが出来たのが良かった。コロナ禍で人の目を気にせず、社会に振り回されない暮らしをしたかった。
竹田に住んでみて、改めて、すべてのバランスが良いなと思います。欲しいものがちゃんと手に入る。その土地の野菜が買える。数時間前に捌いたばかりのジビエ肉を生温かい状態で近所の方から貰えることも。湧水の水汲みに行く場所がいくつもあるので、小トリップ感もある。お味噌汁が、すべて竹田産で作れる(笑)。ペトラスさん:海から遠いけど、竹田で買う魚も新鮮で美味しい。日本食を独学で勉強し、スウェーデンで菜食カフェもしていた母親が初めて日本に来て、この家に滞在した時はとても喜んでいました。
季久さん:お母さん、ここで、おにぎりを作っていました。市内のスーパーで梅干しや昆布をたくさん買い込んで(笑)。
季久さん:竹田って、友人が来た時にどこ連れて行こう、っていう選択肢があるのがいい。
岡城跡やいろんな所に連れていきたいし、友達に遊びに来て欲しいって思う。
城下町の雰囲気も歩いているだけで楽しいし、昔からやっているお店の感じも好きだし、ちゃんとした図書館もある。ペトラスさん:図書館、めちゃいいね!(日本語で)。
施設が新しいし、子どもが遊べるスペースや児童書も充実している。映画やコンサートもグランツたけたに行けばやっている。町にいい劇場があることは大事なことです。竹田には感度が高く、文化に理解がある人が多そうです。季久さん:温泉も30分圏内で行けるし、家族湯があることも、こっちに来て初めて知りました。
ペトラスさん:スウェーデンではサウナが身近にあり、私は温冷交代浴が好きです。スウェーデンでは一般的なのですが、もし竹田で願いが叶うなら、1年中泳ぐことができる屋内温水プールがあったら、すごくいいですね。
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これから移住する人へのアドバイスをお願いします。
季久さん:人によって求めるものは違うし、仕事や住む場所にもよるけれど。美しい自然に囲まれて暮らしたい方には、理想通りの生活ができると思います。私は今でも窓から入ってくる木漏れ日の美しさにハッとしたり、空の青さに感動したりしています。
ペトラスさん:現在はリノベーション中ですが、将来的にカフェができるようなイベントスペースを作りたいと考えています。この場所で人を繋ぐことができたらと、そう願っています。
- 編集後記
取材時に家を訪れた時、一瞬にして目を奪われるような大自然のロケーションが拡がり、豊かな暮らしを体現するレオさん夫妻の姿がありました。ゆったりとした穏やかな時間が流れ、「ここは北欧?」と錯覚してしまうほど。お話を伺うなかで、お二人が理想の家に巡り合えたのは、国境を越えて生きてこられた行動力と、その経験値ならではの直感があったからではと思います。そして、”他国の文化を学ぶ”という共通点から、3世代の人生が1本の糸で繋がっているような、レオさん家族の物語がありました。世界各国の地を知る二人が選んだ、竹田。
レオさん家族がこの先、竹田でどんな人生を歩んでいくのか、未来が楽しみです。