INTERVIEW
城下町から発信する、カフェと塾で町おこし
地方創生や起業したいと移住を考える方も多いのではないでしょうか?”この町で何をやりたいのか、何が求められているのか”、人それぞれの経歴や発想から個性豊かな事業が生まれ、さまざまな町おこしの形があります。今回は、竹田を拠点に活躍する青年をご紹介します。
竹田城下町の商店街に、若者たちが頻繁に出入りする一軒の建物があります。『竹田カフェ』と『竹田塾』の看板を掲げ、夕方になると子どもたちが勉強に勤しみ、土日祝日は珈琲の香りが店内から漂い、観光客で賑わいます。
“カフェと塾を中心としたまちづくり”事業を運営する、和田貫汰さん。大学在学中から竹田で起業し、卒業後も市内の企業に務めながら挑戦を続けています。移住歴2年目の和田さんに現在の暮らしについて伺いました。
- プロフィール
和田 貫汰さん
広島県出身。都市計画や建設を学ぶため、2018年大分大学理工学部創生工学科に入学する。在学中に学生団体WADAIKU を設立し、音楽イベント企画や飲食店経営などを展開する。さらにNASA留学(HASSE SPACE SCHOOL)、フィリピン・マニラアテネオ大学短期留学卒業を経て、九州・大学発ベンチャー・ビジネスプランコンテストに参加し、優秀賞を受賞。その後、2022年竹田市に拠点を置き、カフェと塾を中心としたまちづくり”竹田プロジェクト”を始動。交流人口の拡大と将来を担う人材育成を目的に『竹田カフェ』と『竹田塾』を開業する。2023年大学卒業後に「株式会社高山組」に就職し、竹田に移住する。2024年11月に株式会社WADAIKUを設立。代表取締役に就任し、更なる事業展開を進めている。
-
移住するまでの経緯を教えてください。
和田さん:僕は広島出身で、住宅や人が集まる空間の建築をしたいと大分大学に入学しました。大分に住みながら、地元広島の町がどんどん出来上がっていくのを目の当たりにしてきました。町が開発されることは良いことなんですけど、あんまり好きになれなくて。なぜなら、僕がそれに関われてないという劣等感みたいなものを感じてしまうんです。未開発の町や、昔は良かったけど今は落ち込んでいる町の再建を目指す方が自分を活かせるんじゃないかと思いました。そういう点で、大分には自分の居場所があるなと思っていました。
大学時代、アメリカに留学していた頃
和田さん:もっと自分の居場所がないかと探していた時に、竹田という場所が見つかったんです。ポテンシャルをもの凄く持っている町なんですけど、高齢の方が多くなってきて、竹楽など良いイベントがあるのに、いろんな事が続かない、もどかしさみたいなものを感じたんです。僕が今すぐに何かできる訳ではないですけど、移住することで、面白いことができるきっかけになるかもしれないと思ったのが、ここに来た経緯です。
-
竹田を拠点に選んだ決め手は何でしたか?
和田さん:初めて竹田に来たのは、県が実施する『旅する学校おおいた』に参加した時でした。県全域のまちづくりに関わる方と交流できるプログラムで、たまたま竹田を巡る機会があり、この建物(現:竹田カフェ)に出会ったんです。建物のオーナーである株式会社高山組は町のために建物を残してくれていました。自分の利益だけじゃなく、町のために何かできないかと模索している大人がたくさんいる。自分が何かチャレンジする上でもその方々がサポートしてくれる。その安心感が一番強かったですね、竹田の町は。
『旅する学校おおいた』に参加した当時の和田さん
和田さん:他の町では、よそ者という違和感やギャップを感じたこともあったんですが、この町は「受け入れよう」という雰囲気が感じられたので拠点に選びました。起業する上で、まちづくりたけた株式会社の『あぐる塾』にも参加して、かなり勉強にもなりました。基本的な損益分岐点も学んで、リスクヘッジみたいなことも最低限考えながら事業を始められたので、起業する方はぜひ入っていった方がいいと思います。
-
移住後の活動や生活はいかがですか?
和田さん:竹田は楽しいですよね。さっきも市役所に行ってきて、知ってる人がいっぱいいるっていう環境が好きなんです。僕が元々建築をやりたかったのはそういうところで、イベントをつくったり、文化祭のように、みんなでわいわいしたりする事がすごく好きなんです。普段勉強の空間でしか一緒にいなかった人々が、非日常的な空間で顔を合わせて話をするのって、楽しいんですよね。それが日常茶飯事にあるなと思ってるんです、竹田って。
普通交流のない人だったり、都会だったら隣人の方と話すことはないけれど、「寒くなったね」って些細な言葉を日常で交わしたり、市役所に行って「最近どうですか?」って話ができるのは、この町の良さだなと。なので、市役所に行くのが楽しみなんですよ、僕は(笑)。和田さん:普通あり得ないじゃないですか、市役所って書類を作りにいくだけのイメージです。そこが一つのコミュニティになってること自体が、この町の良さなのかなと思います。生活はしやすいですよ、人間関係においても、コミュニティにおいても。
事業の方はカフェと塾をやっていて、今年で2周年を迎えました。カフェに関しては、祝日に休まれる店が多く、観光客の方が土日に来て行き場を失くしてることに気がついたんです。そういう時に受け入れられる空間を提供できたので、もの凄くやり甲斐を感じています。塾においても、今は学校が統合するほど子どもの人数が少なくなってます。同級生がなかなかいないなか、塾に集まることによって一つのコミュニティが生まれつつあります。そこが自分のやり甲斐になっていますね。 -
都市部から移住して、不便に感じた点はありますか?
和田さん:今はマイナンバーカードで書類もコンビニで出せるようになりましたし。最初の抵抗は起業に関する保健所の申請が、となり町の豊後大野市に行かないといけないぐらいですね、竹田には出張所しかない。車を持ってないと不便だと思いますけど、車さえあれば、逆に便利なんじゃないですか?竹田は九州の真ん中にあるので熊本も宮崎も行きやすいし、鹿児島に用事があった時も行きやすかった。「家を持つなら竹田だな」って、皆にお勧めしたいです。
和田さん:遊びでは大分市の方へも行きますけど、竹田の町で飲むのは結構面白いんです。とはいえ、若者世代は竹田で飲むっていうことをあまりしたことがないので、その面白さを分かっていないんですよ。そこは商店街組合の方々と一緒にやらないといけないとこだなとは思うんですね。ただ20代の子が竹田で一番壁にぶつかるところって、コミュニティだと思うんです。社会や都会の方だと仕事が終わって飲み屋に寄って帰るとか、同世代とならあるんです。でも竹田に来たら同世代が職場にいないっていうパターンが結構あると思うんですよ。何をしなきゃいけないかっていうと、職場以外のコミュニティを作らないと、その子たちが竹田に残ってくれないと思うんです。
和田さん:その仕事が僕らの役割なのかなと思っていて、月に1回「20代の子はいつでも来ていいよ」っていう『竹田カフェナイト』をやってるんです。職場はお金を稼ぐ場所と割りきって、仕事が終わった後や土日の空間を作ってあげる。若い世代はやりたい事や夢があると思うんです。仲の良いコミュニティがあったら、ここからでも何かできるんじゃないかという発想が生まれると思うんですよ。20代の子が竹田でバーをやるような話が出てき始めたら、ちょっと面白くないですか?
田舎だから不便っていうけど、買い物も不便じゃないし、公共交通機関を使わなくても移動できる。不便なところって、20代の横の繋がりがないってことなんです。 -
住んでみて感じた竹田の面白さとは?
和田さん:近所のご高齢の方々と話をすると、もの凄く面白いんですよ。でも向こうからは話しかけてくれないっていうのがキーポイントで。20代の子が竹田に来たならば、面倒くさいと都会の子は思うかもしれないけれど、積極的に隣の人に挨拶に行ってほしい。市外県外の実家に帰った時はお土産を1個持っていくという心がけをするだけで、竹田が住みやすくなるし面白くなります。それをやって欲しいですし、それやらないと面白さは出てこないんですよ。竹田の面白さはご年配の方々にあると思うし、聞けば聞くほど面白い話が出てきます。はじめは「竹田はこんな町」と遠慮がちに話される割に、聞いていくと「私は昔、着付けをやってたんだよ」って着物の自慢話が出てきたりするので。
-
今後の展望を教えてください。
和田さん:カフェに関しては、本格的なコーヒーを求めている方向けに新たな事業を進めています。目指すは『城下町発のコーヒー屋さん』で新たに自家焙煎ブランド『Taketa Coffee Roastery』を立ち上げました。法人販売とあわせてオンライン販売を今後伸ばしたいなと思っています。
株式会社WADAIKUのメンバーの皆さん
和田さん:塾に関しては、子どもの人口がもっと多い大分市や熊本県まで拡大したいと思っています。講師は主に大学生なんです。大学生のコミュニティをここに作ったのはそれが理由なんです。夜に麻雀やダーツができる空間があって、この建物に泊まって次の日にここから仕事に行くためでもあるんです。中には竹田で就職を探そうかなって思う子がやっぱり何人かいるんですよ。直接的に僕が移住者増加で課題を解決したいって訳じゃないんですけど。僕らが考える、このぼんやりとした手段みたいなものに一つずつ取り組むことが何かに繋がればいいかなって思っています。
-
これから移住する方へのアドバイスをお願いします。
和田さん:まず、「竹田に一度来てきてください」って誰でも言うじゃないですか。竹田の町って、来てもなかなか分からないんです。”言葉に表せないもの”が竹田の町だと思います。まずうちのカフェに来てください、土日祝日に。そしたら僕がなんぼでも喋ります(笑)。
- 編集後記
竹田カフェの店内で熱く想いを語ってくださった、和田さん。大学在学中から目標を次々と掲げ、実現されてきた有言実行の勢いが感じられました。少子高齢化が進む竹田ですが、若い世代が移住し活躍する場が生まれることで町に活気が溢れます。竹田は「チャレンジできる町」と和田さんが言う通り、若い世代を応援する町でもあります。今後どんな展開をされるのか、和田さんの新たな挑戦に注目です。
株式会社 WADAIKU
https://wadaiku.com/『竹田カフェ』
https://shop.taketacafe.com/『竹田塾』
https://taketajuku.com/