INTERVIEW

サッカー選手として活躍後、第二の人生を竹田ではじめる。

第二の人生というと、一般的に定年退職後に田舎暮らしを楽しみたいと移住を考える方も多いのではないでしょうか?
今回は26歳の若さで、第二の人生をはじめる為に竹田に移住した青年をご紹介します。

 

 

竹田市直入町長湯、日本一の炭酸泉が湧く「長湯温泉」がある温泉地です。農業も盛んな地で、田園風景が拡がる丘の一軒家に暮らしている宇野能功さん、現在27歳。竹田への移住までの経緯や現在の暮らし、今後の展望について伺いました。

プロフィール

宇野能功 
大分県大分市明野北出身。4歳でサッカーを始める。10歳で県選抜、12歳で九州選抜、西日本選抜と幼少期より選手として活躍する。中学入学と同時に、福島県のサッカー育成学校JFAアカデミー福島に入学。西日本選抜、日本選抜として活躍し、全国ベスト8となる。東日本大震災を経験し、放射能により影響を受けた地域であった為、チームの拠点が静岡県へ移転する。高校時代もJFAアカデミー福島で活躍し、全国3位となる。日本体育大学へ入学後もプロを目指すが、身体の故障により3度の手術でサッカーが充分にできず卒業する。大分市を本拠地とする企業チームに所属し、3年間活躍後、25歳でサッカー選手を引退する。現在はサラリーマンとして勤務しながら、竹田市長湯に移住。「セボン」というグループで地域おこし活動を実施している。
C’est bon ~セボン~(@cestbon_2020) 

  • 移住するまでの経緯を教えてください。

    宇野さん:僕の一回目の人生は全てサッカーにかけてきました。夢はプロサッカー選手で、幼少期から朝起きて日が暮れるまでボールを蹴り、夢を追いかけていました。小学校卒業と共に親元を離れ、福島県のサッカー育成学校に入学して、そこからさらに24時間サッカーにのめり込む日々を毎日過ごしてきました。それくらいサッカーが好きで、地元大分県を離れ、福島県、静岡県、大学進学で東京、神奈川県と転々としてきました。
    本気で目指していた分、夢が叶えられなかった時は、悔しさを通り越して凄い感情になっていました(笑)。人生が終わってしまったと…。

    宇野さん:そこから、”二回目の人生をどう過ごそうか?”と、考え抜いた先に辿り着いたのが今の生活でした。僕は大分県が好きで、田舎が好きで。僕の好きな人達がいる大分県の為に、何か自分のできることはないか?と考えたんです。
    自然が魅力的なので、自然に関わる所で自分の力を発揮できたらいいなと。分かりやすくいうと、”大分県を盛り上げよう”っていう想いがありました。
    そんな時に大分県企業チームの監督から、「大分でサッカーしないか?」と誘っていただいて。今まで頑張ったサッカーの力に感謝して、まずはサッカーで大分を盛り上げようと入社しました。お世話になった方々にも最後に恩返しをしたかった。次に自然に関わる農業を始めようと思っていたので、サッカーをするのは3年間と決めていました。サッカーを満足するまでやり切り、今はサラリーマンと農業と2つの仕事にフルパワーを注いでいます。

  • 移住先に竹田を選んだ決め手は何でしたか?

    宇野さん:大分を盛り上げたいと帰って来て、”大分県で一番良いところはどこか?”って、県内全部の空き家バンクを回ったんです。入社した22歳から物件を探し始め、サッカーをしながら休日に回っていました。その中で、竹田が正直一番良かったんです。特に竹田の中でも長湯が一番良かった。2年間かけて探し、長湯に惚れ込んで、ここに決めました。

    宇野さん:その理由は、環境、空気感。分かりやすくいうと、”水”。
    水が本当に美味しい!めちゃくちゃ湧き出てる!ニッチな話になるんですが、生活する上で今後のこと考えると水が本当に大切だと思っていて。美味しい水が飲めるか飲めないかっていうのは、僕スポーツやっていたから本当に大事で。水は全部に繋がっているから。生産にも繋がるし、体や農業、そして飲食にも。これに気づく人が是非いて欲しいですね。どれだけ重要かと。その水が、僕が探した中で長湯が一番だった。これがまず、1つ目。

    籾山湧水(長湯)で水を汲む宇野さん

    宇野さん:2つ目は、”温泉”。僕の中では別府や湯布院が有名だと思っていたのですけど、いざ来てみて長湯の温泉は負けてないと。すごくローカルな感じで味があって、皆には知られてない良い温泉が長湯にはある。
    3つ目は、”景色と空気感”。車で通った時の竹田は他には無いくらいの爽快感がある。大分市まで通勤していますが、竹田に帰って来るだけで気持ちいいそんな環境。
    最後は、”涼しい”。今から温暖化で暑くなっていくこの時代において、大分市は暑い。東京は暑い。でも長湯は朝も夜も涼しくて、クーラーはいらない。とても住みやすいです。
    この4つですね。これが決め手です。その上で将来的に自分のやりたいことができるポテンシャルが長湯にはあると思ったんです。

  • 移住先を長湯に決めて、家はどのように見つけましたか?

    宇野さん:竹田市移住定住支援センターの空き家バンク担当の方に物件を紹介いただいて、対応は最高でした。自分がやりたいことを伝えた上で、「宇野くんには、この場所が合うんじゃないか?こういう土地や環境がいいよね?」って、移住者の想いを真剣に聞いてくれて、その人に合う的確な場所をすぐに提供してくれる。ここに住めるようになったのも、空き家バンク担当の方に出会えたからで、むちゃくちゃ感謝しています。農地付きという家だけじゃなくて、土地と環境を含めて選びました。想い描いていたことが、ここからスタートできそうだったんで。

    宇野さん:26歳の時に住み始めて、今2年目です。この物件がいいって決めたのは25歳で、そこから大家さんに半年間かけて交渉しました。僕は一生懸命「ここに住みたいです。こういう事をしたいんです。」って、会って話しに行って。熱意が伝わって購入することが出来ました。山の中に建つ古民家で開放的な空間にしたかったので、竹田市の空き家改修事業補助金を使わせて貰いました。天井を吹き抜けにして、下も和室の襖の仕切りを取ってワンルームにしました。業者さんに頼んで、全部自分で見積もりも出して、かけ合って。初めてなので苦労がいっぱいありましたね。

  • 都市部から移住して、苦労や不便だと感じた点はありますか?

    宇野さん:それはいっぱいあります(笑)。まずは冬の雪。水道や路面が凍る。これが冬の問題で、一番は水が凍ることですね。水道が破裂しなかったですけど、初めてだったので対策をせず、水が凍って出なくなっちゃった。
    夏はやっぱり草刈りですね。これはもう移住者の使命です。これだけは覚悟というか、やれない人はキツイかなって。どこもそうですけど、やっぱり大変です。

    宇野さん:あとは携帯電話の電波が悪いぐらいですかね(笑)。僕はネットから離れた生活って本来の幸せだと思うんですよ。携帯を常に気にする今の若い世代。ここに居ると気にしないで良い、その異世界が大事で。自分の世界にちゃんと集中して自分を見つめることができるのはマイナス面の中のプラスで。本来の人間のあるべき姿に気づけるという、食事するだけで幸せ、寝るだけで幸せって、田舎だからこそ感じられる良さだと思うんです。
    インターネットは一応引いています。連絡が取れないのはまずいなと思って。入居して1年位はWi-Fiもいらないと思っていたんですが、僕だけじゃなくて、若い仲間と一緒に農業をやっていて、その仲間が「彼女と連絡がつかない」とか、「困っちゃうから」と言うので、仲間のためにWi-Fiをつけました(笑)。

    地域の人に作業を教わる、宇野さんと仲間たち

    宇野さん:不便なこともあるけど、今の生活は最高です。地域の人との関係も最高ですね。長湯の方はもう家族です。たくさんエピソードがあり過ぎて。例えば、近所のおばあちゃんがご飯を作ってくれるとか。災害で困った時も近所のおじさんが何一つ嫌な顔せず、言うまでもなく手伝ってくれたり。台風で畑の水路が詰まっていて、それを「宇野くん、勝手にやっておいたよ~」って孫のように接してくれる。僕も家族のように思っていますし、誇張なしで本当にそう思います。

  • 今後の展望について教えてください。

    宇野さん:農業を始めて、今2年目です。お米と葡萄と椎茸、他に野菜も作っています。独学で勉強しながらですが、米作りはそれこそ地域の年配の方々が詳しいんで、「教えて」って言わんでも教えてくれるんです(笑)。今年は鴨を育てて合鴨農法米を栽培しました。皆に食べてほしいものを作っていて、今は量よりも質を高めることに重点を置いています。自分でやっているつもりですが、結局は地域の人々に助けられ協力して貰いながら作っています。必要な機材も貸してくれたり、愛ですね。

    宇野さん:今僕が、一番力を入れているのは、葡萄です。”竹田で果物をやるのなら何?”って考えた時に高低差のある地形なので、葡萄を作りたいっていう想いが移住する前から頭にあったんです。直入支所に相談に行ったら、竹田市が葡萄果樹を推奨していて補助金が出ると聞いて使わせて貰いました。
    さらに栽培をする上でも、市の葡萄補助担当の方にサポートをして貰っています。僕がこういう性格なので、あくまでも自分でやるってスタンスは大事にしていて、本や動画で学んで最初は独学で行けると思っていたんですけど、やり始めると独学ではダメだ、やっぱりちゃんと聞かないといけないって気づいて。困った時にやり取りしてアドバイスを聞いています。
    あとは実際に葡萄農家さんの所に行って助言を頂いたり、やっぱり独学だけでは経験には勝てない。経験のある方の所に実際に足を運んで聞いて取り入れているって感じです。全部できることはやっています。

    宇野さん:農業は1年に1回しか挑戦できないから、そこが面白くて、難しいところ。サッカーを3年で区切りをつけたのも、なるべく早く始めたかったから。この先60年生きたとしても、あと60回しかチャンスがない。飲食店だったら毎日が勝負だけど、お米や葡萄は年に1回だから一生懸命やらないと。だからこそ勝負できる分野だと思うんですよ、農業は。
    一次産業って評価は低く、お給料も少ないという分野なんですけど、でもその分そこを耐えて長期目線で考えたら充分勝てるんじゃないかなって。おじいちゃん、おばあちゃんの技術には勝てないけれど、早くから参入して1年ごとの機会を大事にしたら、充分面白い分野かなと思いますね。

    宇野さん:この葡萄がいつか竹田を代表するものになって、長湯をさらに魅力的な観光地にしたいっていう想いがあります。まずは一次産業で人を呼んで、そこから飲食店などに繋げて、第二次、第三次と発展させていけたらいいなと。口で言うのは簡単なんですけど、葡萄作りの完成が何十年かかるか分からないですし、一生懸命にやって、どれだけ早く完成させるかっていう、十年単位のプランです。現在「セボン」というグループを立ち上げて、若い仲間たちと一緒に農業をしています。市外から、ほぼ毎週休日に部活みたいな感じでやって来るんです。今日も大分市から仲間が来ていて、同じ歳の親友の山下智皇くんです。

    山下さん:去年10月に初めて来て、友人達と長ネギの土かぶせという作業をして、それがキツかったけど楽しかったんです。それまで農業に携わることはなかったんですけど、休日に通うようになりました。竹田は本当に来る度にいい所で、水も空気も綺麗だし、とてものどか。
    宇野くんに誘われた時の言葉が、「竹田を盛り上げたい」。僕も数年前から何かをやりたい、自分で生きた証を残したい、どんな形でもと思っていて、宇野くんから「葡萄を作りたい」と言われて、自分たちで一から作る訳じゃないですか。だったら、自分も作ってみたいなって。それが竹田市の貢献になれば。そう思って、今日も地味な草刈りをやったりしてるって感じですかね(笑)。

    取材日に来ていた仲間の山下さん(右)、安部さん(左)

    宇野さん:竹田はめちゃくちゃ良いですよ。人が集まらないことが魅力でもあるし、だからこそ綺麗なものも残されていて。でも将来的なことを考えて、例えば、ほんとに人が来なかったら、「誰がこの地域の草刈りをするの?」「この家は住まないで誰が管理するの?」って、考えるとやっぱり人が来ないといけない。この綺麗な町並みがいつまでもキープできているのは、今の年配の方が一生懸命管理してくれているから。それが永遠に続くかといったら、やっぱり誰かがどうにか変えて人を呼ばないと。道も綺麗にならないし、見た目も汚くなっていく。良いものは残したいのだけど、続かないっていうのが見えているので。
    長湯はもっと人が集まる場所になるって、住む前から思っていたけど、実際に住んでみてより強く感じます。自分が若者の一人として先陣を切れたらいいなって、そこを僕は第二の人生で頑張りたいと思っています。

  • これから移住する方へのアドバイスをお願いします。

    宇野さん:住む前に、その地域のことを知らないといけないですね。地域のことに一番一生懸命なのは、それこそ僕に家を紹介してくれた担当者のような方で。まずは竹田市移住定住支援センターの担当の方、市役所の方、地域に移住した方に話を聞くために足を運んでみる。そこが第1ステップ。
    第2ステップは、地域の人に実際に会って話す。地域の人を知った上で住む。住むってなると、ずっとじゃないですか。ここだって思える場所を自分の足と目で確認するっていうのが移住する上では一番大事で、納得した上で決める。さらに、その場所の良いところばかり聞かずにマイナス面も調べて聞いておく。住んでからじゃ遅いと思います。例えば、草刈って年に1回と思っていたけど、何回もやるものなのだとか。今の仕事をしながら、それができるの?今の体力で出来るの?この面積をできるの?って。冬は水道が凍る、道路が凍るとか。マイナス面も知った上で移住は決めることですかね。

    宇野さん:田舎に住んで働く場所を探すというのは一番のネックだと思うんですよ。僕の場合、大分市まで通勤していますが、何が良いかって、街と田舎は全く別世界ですごく面白いこと。仕事が終わると別世界に帰ってくる、その切り替えがすごく楽しい。2つの世界を1つの人生で生きてるような感覚。「竹田に移住して、そこで仕事を見つけなきゃいけない。」「仕事の為に竹田を離れなきゃいけない。」ではなくて、僕みたいなスタンスでも充分魅力的だよっていうのを伝えたいです。どっちも仕事だから頑張れるし、切り替えができるから気分は爽快です。

    宇野さん:あとは僕ら世代で言うと、これも僕みたいなタイプの場合なんですけど、大分市で働いていると普段は同世代と喋りますよね。けれど田舎や移住の面白いところは、世代が違う年配の方と親身になって話せるところ。こんな考え方あったんやみたいな、僕ら世代には無い考え方や愛情の伝え方、行動が本当に勉強になるんですよ。全く違う世界にいるから。だって普段78歳の方とお酒を飲む機会は少ないじゃないですか?家族のように。真剣な話や、ふざけた話もそげんしないじゃないですか?それが移住をすればできるんです。
    年配の方と接するのは大変じゃないよと。人としても成長できる空間だよと。マイナス面に見えることがプラスである事はでかくて、常に新しい気づきがある。だから楽しい。一日一日がハッピーで、結局は幸せだと。田舎の人が都会に出るのは、田舎って狭いと感じるからで、でも田舎って狭くないですよ。広いですよ、思っている以上に。
    田舎で暮らすんだったら、体力がある早いうちがいいと思います。僕も竹田に若い移住者が増えて欲しいし。若いからこそ、今だからこそ、皆で草刈りやろうよ(笑)。

     

編集後記

太陽のような笑顔で、質問に的確に答えてくだった宇野さん。宇野さんの休日は農業日であり、取材の合間も時間を惜しんで黙々と仲間たちと作業されていました。
人生を試合に例えるかのような、アスリートならではの行動力と戦略、熱意が感じられ、”どうすれば第二の人生の夢を叶えられるか?”という次のゴールに向けて、仲間や地域の人達と、まるでボールを蹴るようにチームで構想を考えられ、その力強い言葉が印象的でした。
若者たちが農作業している姿は眩しく、地域に活気が生まれます。立派な葡萄が実る日に向けて、宇野さんの今後の活躍に期待です。

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